II-B1 LLMの学習と推論の違いを理解する
「事前に学習する」フェーズと「その場で答える」推論フェーズは別物
このレッスンの狙い:LLMの学習と推論の違いを人に説明できる
最終更新: 2026-07-23
この記事の要点
- LLMの学習と推論の違いを人に説明できる
- LLM(大規模言語モデル)とは何か
- 学習(事前学習)というフェーズ
ChatGPTやGeminiに質問すると、まるでその場で考えて答えているように感じます。しかしAIの内部を分解すると、「学習(事前学習)」と「推論」というまったく性質の違う2つの工程が動いています。この違いを最初に理解しておくと、「AIはなぜ最新情報を知らないのか」「なぜRAGという仕組みが必要なのか」といった、この先の編II-Bで扱う技術がすべて一本の線でつながって見えてきます。
LLM(大規模言語モデル)とは何か
LLM(大規模言語モデル)とは、大量のテキストから単語の並び方の統計パターンを学習し、次に来る単語(トークン。詳しくはII-B2で扱います)を予測して文章を生成するAIモデルのことです。ChatGPT・Gemini・Claudeなど主要なAIサービスの頭脳部分にあたり、入力を数値化(エンコード)してから次の出力を予測するという処理を繰り返す点は各社共通しています(出典: AWS, 2026年7月確認)。
学習(事前学習)というフェーズ
学習(事前学習)は、Wikipedia・GitHub・書籍・Webクロールなど数兆語規模のテキストを使い、「次に来る語を当てる」という反復作業を通じてモデルのパラメータを調整していく工程です(出典: Elastic, 2026年7月確認)。この工程には数週間から数ヶ月規模の計算コストがかかるとされ、常に学習を回し続けるのは現実的ではないとされています(出典: 株式会社AX, 2026年7月確認)。学習は「一度きりで重い」工程であり、いったん終えたら、そのモデルの知識はそこで固定されます。
推論というフェーズ
推論は、学習を終えたモデルに実際に質問し、その都度答えを作らせる軽い工程です。推論はさらに2段階に分かれ、「入力を一括処理して文脈を組み立てる段階(プレフィル)」と、「直前までの生成結果を踏まえて次の1語を予測する処理を繰り返す段階(デコード)」から成り立っています(出典: arXiv「LLM Inference Unveiled」, 2026年7月確認)。イメージにすると、次のような流れです。
質問: 「AIOとは何ですか」
プレフィル(一括処理): 質問文全体を読み込み、文脈を組み立てる
デコード(1語ずつ生成):
1語目 → 「AI」
2語目 → 「検索」
3語目 → 「最適化」
…(直前までの生成結果を踏まえて次の1語を予測する処理の繰り返し)質問するたびにこの2段階が動くため、学習に比べればずっと軽い処理で済みます。
なぜこの区別がAIOの土台になるのか
この2つの区別を知ると、AI検索の特性が見えてきます。学習は事前に終わっている一度きりの工程なので、学習を終えたあとに起きた出来事(新商品の発売・価格改定など)を、モデルは基本的に知りません。この「知識の締め切り」については次のII-B3で詳しく扱います。また、推論だけでは新しい情報を扱えないため、質問のたびに外部情報を検索してから答える仕組みが必要になります。これがRAGで、II-B5で仕組みを詳しく見ていきます。要するに、学習と推論の違いを押さえることが、この先の技術理解すべての出発点になるということです。
実践ステップ
- 自社(または担当している)サービスについてChatGPTに質問し、回答の中身がいつ頃の情報に基づいていそうか確認する
- 回答に出典や引用リンクが付いているか、それとも学習した記憶だけで答えているように見えるかを見分けてみる
- 「AIは考えているのではなく、統計的に次の言葉を予測している」という説明を、自分の言葉で1分間話せるように練習する
- 学習(重い・一度きり)と推論(軽い・都度)という2つのフェーズの違いを、簡単なメモか図にまとめておく
- このメモは次のII-B2(トークンとコンテキスト)・II-B3(学習データカットオフ)を読む際の土台になるので保存しておく
まとめ
LLMは、大量のテキストから統計パターンを学ぶ学習(事前学習)と、学んだ知識をもとにその場で答えを作る推論という、性質の違う2つの工程で動いています。学習は重く一度きり、推論は軽く都度発生するという非対称性が、「AIは最新情報を知らないことがある」「RAGのような検索の仕組みが必要になる」という、この先扱う技術的な論点すべての土台になります。この先のII-B2では、その推論が実際に何を単位として言葉を数えているのか、トークンの正体に踏み込みます。
このレッスンはテキストとスライドで学べます。スライドは上のビューアからご覧ください。
確認テスト
選択肢をクリックすると、その場で正誤と解説が表示されます。
Q1. LLMの「学習(事前学習)」は軽く都度発生する処理であり、「推論」は重く一度きりの処理である。
実際は逆です。学習は一度きりで重い工程であり、推論は都度発生する軽い工程です。
Q2. 推論の2段階として本文が説明するものはどれか。
推論は、入力を一括処理して文脈を組み立てる「プレフィル」と、次の1語を予測する処理を繰り返す「デコード」の2段階に分かれます。
Q3. LLMの学習(事前学習)にかかる計算コストの規模として本文が挙げているものはどれか。
学習には数週間から数ヶ月規模の計算コストがかかるとされ、常に学習を回し続けるのは現実的ではないとされています。
このレッスンのFAQ
Q. なぜAIは学習後に起きた出来事を知らないことがあるのですか?
学習は一度きりで重い工程であるため、いったん終えたらそのモデルの知識はそこで固定されます。学習後に起きた出来事は基本的に知らないままになります。
Q. 推論はどんな流れで進みますか?
入力を一括処理して文脈を組み立てる「プレフィル」の段階と、直前までの生成結果を踏まえて次の1語を予測する処理を繰り返す「デコード」の段階の2段階で進みます。
Q. 学習と推論の区別がAI検索の理解になぜ役立ちますか?
学習は事前に終わっている一度きりの工程なので新しい情報を扱えず、推論だけでも最新情報は補えないため、質問のたびに外部情報を検索してから答える仕組み(RAG)が必要になる、という理解につながるからです。